年の瀬が近づくと、百貨店や専門店などを中心にお歳暮商戦が始まります。しかし、お歳暮とはそもそも、いつ、誰に、何を、何の為に贈るものなのか。普段からお歳暮を贈っている人もそうでない人も、その真意や歴史を熟知している人は少ないと思われます。
この記事では、「お歳暮」についてその歴史的背景に触れながら、現在の慣習についても詳しく紹介して参ります。

お歳暮とは
お歳暮とは文字通り、歳(年)の暮れに、お世話になった相手に「来年もよろしくお願いします。」という意味を込めて贈り物をする習慣です。
起源には諸説ありますが、古くは中国に端を発すると言われています。中国の道教において旧暦の1月15日を「上元」、旧暦の7月15日を「中元」、旧暦の10月15日を「下元」とし、各日を神様の誕生日として御供物をする習慣がありました。
そこへ、日本古来の「盆礼」という盆前に日頃お世話になっている家に見舞いの品を贈る習慣が結びついて「お中元」の慣習が生まれます。
そして、正月に御先祖様の霊をお迎えする為、年末になると実家を離れた人々が実家や本家に御神酒の肴を持参する習慣が中国の行事と合わさり、「お歳暮」の原型が誕生しました。
また、江戸時代に入るとこのお歳暮の習慣は色濃く広がっていきます。武士は自身の所属する組の頭に准血縁の証として年末に贈り物をし、長屋の大家さんや仕事上の取引先などに対して店子や商人が日頃の感謝を込めて贈り物を持参し、当時は掛け売りが主流だった為に盆や年末に半年分の精算をする際、お礼の意味も込めて贈り物をしたという背景があります。
お歳暮は誰に贈る?
結局誰にお歳暮を贈るべきかと言うと、その年お世話になった人が一般的です。詳しい時期と相場については次項以降で紹介しますが、基本的には12月に「今年1年はお世話になりました。来年もよろしくお願いします。」という意味を込めて贈り物をします。
明治期以降は、企業間における取引先や会社の上司、あるいは親戚に対して贈る事が一般的に普及していき、近年は実家の家族や親しい友人・知人などにも贈られるようになりました。
時代の流れとともに送る相手を選ばなくなってきている為、誰に送っても良しとされており、仕事上の付き合いや親戚同士でなくても相手を選ばず贈る事ができます。
基本的には誰にでも贈る事ができるお歳暮ですが、中には贈ってはいけない、贈るのを控えた方がいい相手もいます。
- 国会議員
- 国家公務員
- 地方公務員
- 裁判官
- 警察官
- 教師
- 医師
公務員には「倫理規定」というものが存在し、利害関係者からの金銭・物品の贈与を受けることを禁止されています。この利害関係者というのは「許認可等の相手方」「立入検査等の相手方」「契約の相手方」などが当たります。しかしながら、利害関係者からでなければお歳暮やお中元等の受け取りは可能な為、通常の社会的儀礼の範疇で可能となります。
教師と医師に関しては、禁止されているわけではありませんが、特定の人物を贔屓していると見られてしまう為、避けて方が良いでしょう。
喪中期間の相手へお歳暮を贈る際の注意点

自身が喪中の場合も、相手が喪中の場合も、お歳暮を贈ることは概ね問題ありませんが、相手が忌中の場合には控えた方が良いでしょう。
そもそもお歳暮とは、祝い事ではなく、日頃の感謝を込めて贈るものなので、喪中期間の相手にお歳暮を贈る事自体はあまり問題視されません。
しかし、身内の不幸というのは定義付けだけの問題ではない為、例えば忌中(四十九日法要を迎えるまでの期間)には気落ちしている方も少なくないと思います。よって、忌明けしてから「寒中御見舞」として贈るのが良いでしょう。その際、水引の付いていない白無地の熨斗(のし)で送ります。「熨斗」については別の記事で詳しく紹介します。
つまり、喪中期間の相手へお歳暮を贈ることは、社会儀礼上問題ありませんが、相手の気持ちを慮る必要があるという認識で間違い無いでしょう。
お歳暮の時期と相場
お歳暮を贈る時期については、前項で説明した通り年の暮れに当たる12月に贈るのが一般的ですが地域によって多少差があります。
贈り先の所在地が関東の場合、12月1日から25日頃までに着くように贈ります。
関東以外の北海道、東北、東海、関西、中国、四国、九州は12月13日から25日頃が一般的です。
しかし、当該時期にお歳暮を出し忘れてしまったり、時期を過ぎてから贈り物をする場合もあると思います。その際は、時期に応じてお年賀や寒中見舞いを送ると良いでしょう。
お歳暮、お年賀、寒中見舞いについて、それぞれの時期について表でまとめておきます。
お歳暮 | お年賀(配送NG、持参必須) | 寒中見舞い | |
関東 | 12月1日から25日頃 | 【松の内】1月1日から7日 | 1月8日から2月3日(立春の前日)迄 |
関東以外 | 12月13日から25日頃 | 【松の内】1月1日から15日 | 1月16日から2月3日(立春の前日)迄 |
これらの時期については、あくまでも一般論として周知されている内容です。近年は比較的時期が早まる傾向にあり、また相手によっては柔軟な対応が求められるかもしれません。
お歳暮の相場については、3,000円から5,000円程度と言われていますが相手によっては多少高額でも問題ないでしょう。その場合には、10,000円あたりを上限にするのが相場です。
金額に関してはあくまでも世間的な相場ですが、あまりにも高額になってしまうと相手も負担に感じてしまう場合も考えられます。以下で説明するお歳暮として注意が必要な物品と合わせて、相場も相手のことを考えて決めた方がいいでしょう。
お歳暮として注意が必要な物品
比較的贈る相手を選ばず、相場もお歳暮として相応しくない品物もございます。

- 履物や敷物・・・「相手を踏みつける」という意味がある為。
- 下着や肌着・・・「みすぼらしい格好をしているから施しをあげる」という意味がある為。
- 刃物・・・「縁を切る」という意味がある為。
- 4や9を連想させるもの・・・例えば櫛など、縁起の悪い数字を想起させ、贈答品には不向き。
- ハンカチ・・・漢字で「手巾(しゅきん)」と書き、「てぎれ」と読めることから、「手切れ」を連想させる為。
- 筆記用具や時計・・・「もっと勉強に励め」という意味があり、特に目上の方や取引先には不向き。
- 鞄・・・「出勤」を連想させる為、特に目上の方や取引先には不向き。
- お茶や海苔・・・昔はお葬式の際に手土産を準備する時間がない為に、自宅にある緑茶を渡していた風習があり、その名残でお茶や海苔は香典返しとしての印象が根付いています。ただし、気にしない方も多く、実際に汎用性が高く人によっては喜ばれる贈答品の為、一概に良くないとも言えません。
- 現金やギフト券・・・「お金に困ってるだろうから施しをあげる」という意味があり失礼。ただし、クオカード等のギフト券に関してはもらって嬉しい贈答品でもある為、贈る相手を選べば喜ばれるお歳暮でもあり、誰に贈るかが重要になってきます。
- 相手にとって都合が悪い物・・・当然ですが、例えば相手の嫌いな物や、普段使わない物など、相手の都合を無視したお歳暮はありがた迷惑になる為、注意が必要です。
各項目でも書いていますが、上述したものが全てタブーとされているわけではございません。内容に関しては贈り先の都合も考慮して良く吟味する必要があります。
お歳暮とお中元の違い
冒頭の方でも少し取り上げましたが、日本にはお歳暮の他にお中元という風習も存在します。両者の違いについて紹介して参ります。
結論から申し上げると、お歳暮もお中元もお世話になった方々に日頃の感謝を込めて贈り物をすることに違いはなく、それが1年の中頃か、年末かという時期的な違いに過ぎません。
その時期についても、お中元は7月から8月、お歳暮は12月の内で地域により違いがあります。
歴史的背景を紐解くと、双方の違いがより見えてきます。
お中元は、中国の三元に起源を持つと言われています。旧暦の1月15日を上元、旧暦の7月15日を中元、旧暦の10月15日を下元とし、神様の誕生日に当たるこれら三元に人々は御供物をして神々の生誕をお祝いしました。
その風潮が日本に流入し、日本古来の「盆礼」と合わさり、お中元として定着したという経緯があります。
ちなみに「盆礼」とは、お盆の時期に執り行う迎え火、送り火、盆踊りなどと同じ行事で、お盆の時期に親族などを訪問して贈答する風習を言います。
そもそも、「お盆」という文化自体、中国の「盂蘭盆会(うらぼんえ)」に端を発する仏教行事であり、日本古来の祖霊信仰と合わさって今日のような「お盆」が形成されています。
中国の行事と「盆礼」が結びついてお中元文化が根付いたのと同様、中国の行事と「御霊祭」が結びついてお歳暮文化が広がったと言われています。
「御霊祭」は年の暮れから正月にかけて先祖の霊を祀る行事として日本各地で執り行われています。
つまり、お中元もお歳暮も中国の行事と日本の風習が結びついて誕生した慣習であり、時期的な違いはあれど、親しい人やお世話になっている人への感謝を表す為に贈答を行う行事であると言えます。
一般的にお中元とお歳暮は両方贈るのがマナーとされています。
お中元に関しては、別の記事でも詳しく解説しておりますので、そちらもご参照ください。
お礼状の書き方と例文

お歳暮を頂いた場合、親戚であれば電話などで済ませることも可能ですが、相手によってはお礼状を書くことでより丁寧な感謝を伝える事ができます。このお礼状の書き方にはいくつかマナーがあるので、この項で紹介して参ります。
- お礼状は3日以内に出す。遅れる場合は、送付が遅くなったことへのお詫びを付け加えて出す。
- 封書縦書き形式で書く。
- 頭語、時候の挨拶、御礼、相手方の健康を気遣う言葉、結語の構成で書く。
以上の3点に着目して、実際に例文を見てみましょう。
謹啓 歳末の候、貴社いよいよ御隆盛のこととお慶び申し上げます。 本日、御丁重なお歳暮の品をありがたく拝受致しました。 来る年も皆様のご期待に添えますよう全力で努めて参ります。 今後とも変わらぬご高配を賜りますようよろしくお願い致します。 まずは略儀ながら書中にて御礼申し上げます。 敬白 令和○年十二月○日 株式会社○○ (役職)氏名
頭語と結語に関しては、形式的な内容で規定されているものなので、状況に応じて使い分ける必要があります。例えば、例文にある「謹啓」はお客様や目上の方に対して丁寧な表現として使われ、結語には「敬白」の他、「謹言」や「謹白」などが使われます。
一見複雑そうに感じますが、決まった表現が多いことに加え、例文自体は情報も多く、形式に則って書くことはそう難しくはないでしょう。
まとめ
お歳暮の詳細についてまとめると、
- お歳暮は年の瀬にお世話になった人などへの感謝を込めた贈答品
- お歳暮に適した物品や相場を考慮して贈る
- お歳暮とお中元の主な違いは、年の瀬か年の中頃に贈るかの差
- お礼状は早急に、形式に則って出すようにする
このようになります。近年ではお歳暮を贈らない人も少なくありませんが、社会的儀礼の一つの慣習として知っておいて損はないと思います。